初心者のためのケイビング入門 実技編


 
1.ケイビングのテクニック

「装備編」の項目でも述べたとおり、洞穴内の移動は岩登りや沢登りに例えることができます。ですから、ケイビングのテクニックも基本的には岩登りや沢登りで使うものと同じです。しかし、閉鎖空間である洞穴内でしか使わない特殊なテクニックもいろいろあります。とはいえ、それほどむずかしく考える必要はありません。コツさえを理解すれば、誰でもできるものばかりです。

 

2.洞穴内の歩き方

 まずは、ふつうに洞穴内で行動するときのテクニックです──というか基本的な注意点です。横穴で移動するときは天井や洞床など周囲の状態をよく観察して、慎重に行ってください。自然の洞穴は人工のトンネルと違って不規則に凹凸していますから、通路が大きくアップダウンしていたり、天井が急に下がっていたり、洞床がガレていたり、ツルツルの岩場だったりといろいろです。
「ヘルメット」の項目でも説明したように、横穴では頭上に対して十分に注意を払わないと危険です。ときには天井から鋭く尖った岩が飛び出している場合があります。そこにヘルメットをぶつけるくらいなら頭に衝撃は受けるだけですみますが、それが背中だったりすると大変です。つなぎ作業服の生地以外には防護するものはありませんから、大怪我をする可能性もあります。じつは中腰に屈みこんだ状態から起き上がったりするときに、天井から突き出した鋭い岩に背中をぶつけて負傷するというのは、意外と多い事例なのです。
 だからといって、天井にばかり気を取られていると、思わぬ災難に見舞われることになります。足下に対しても厳重に注意を払わなくてはなりません。天井に頭や背中をぶつけても自分1人だけが痛い思いをするだけですみますが、足下をおろそかにすると、自分1人が転ぶだけでなく、同行のメンバーをも災難に巻き込むことになります。
 たとえば、洞内のガレ場などに積み重なっている石です。風雨のない洞穴内の環境では、こうしたガレ石は微妙なバランスのもとで静止していることが多々あります。そういう石は、ほんちょっと触れただけでも大きく崩れたり、転がり落ちたりします。さらにガレ場が坂になっているような場所では、最初に落とす石が小さくても次々に大きい石が動きだし、とんでもない岩雪崩が発生する場合があります。
 もちろん、人が数多く入っている洞穴では崩れたり落ちたりするような石は、すでに先人たちが自身の身をもって、その危険を取り除いてくれています。もちろん、それで油断してはいけません。一方、人の出入りがほとんどないような洞穴では、不安定な状態の石が残っているので、注意してもしすぎるということはありません。とくに新洞穴の場合、足下のガレ石が崩れるだけではなく、洞壁そのものが大きく剥離することがあります。これは意外と危険で、過去に人が圧死した事故例も報告されています。
 こういった危ないガレ石や壊れそうな洞壁は、先に人為的に崩しておくと安全に通過することができますが、そういった作業も、どういうふうに石が崩れるかよく見極めてからでないと自らの墓穴を掘りかねません。事前にありとあらゆる危険性を考え、自分自身や同行メンバーの安全を十分に確保してから実行にうつします。もちろん、危険が大きい場合は断念してください。
 足下が危険なのはガレ場だけとは限りません。石灰岩の母岩が泥などでおおわれている場所や洞床が踏み固められて土間状態になっている場所などは非常に滑りやすくなっているので、十分な注意が必要です。先に説明したガレ石の崩落と違い、こちらの方は人がたくさん入洞している洞穴ほど危険度が高まります。こういった場所を移動する場合は足の裏全体を使って、ゆっくりと歩くようにします。

 

3.洞内で迷わない方法

 次に洞穴に入るうえで、多くの人が不安に思うこと──迷子にならないコツについて説明します。「ケイビングの心構え」でも説明したように洞穴内で迷ってしまった場合、自分の位置を特定するのはきわめて困難です。単純に通路が1本だけ続くだけの洞穴なら、そのまま奥まで行って引き返してくればいいわけですが、通路が複雑に枝分かれして迷路状になっている洞穴では自分がいる場所に、どうやって来たのかわからなくなって、迷子になる可能性は非常に高くなります。
 単独で入洞せず、複数の人間で入洞すれば、迷子になる可能性は低くなります。しかし、人数がいても迷う可能性は否定できません。では、どうすれば迷わずに洞穴内を進むことができるでしょうか。まず一番初めに思いつくのはヒモを引きながら入洞する方法です。確かに確実ですが、長い洞穴の場合、ヒモが足りなくなったら、その先へ行くのをあきらめなくてはなりません。また、洞穴から出るときには回収しなければなりませんから労力的にも大変です。
 次に確実な方法が通路が枝分かれする場所に目印をつけることです。洞口方向に石で矢印を作ったり、矢印を書いたメモ用紙を置いたりします。当然、これも帰りには石を散らしたり、メモ用紙を回収したりして、もとの状態に戻します。ですから、塗料などを使って、直接、洞壁に矢印や文字を書くのはもってのほかです。
 基本的には、やはり自分自身の記憶を頼りにすべきです。もちろん、漫然と歩いていては自分がどこを通ったかなどは覚えていられません。枝分かれした場所を注意深く観察し、どちらかの通路に選んで入ったら、必ず後ろを振り返って自分が来た方向を確認します。この方法はそれなりに効果的ですが、似たような光景が多い洞穴内では、これだけではなかなか記憶に残りません。
 そこで逆転の発想です。自分が移動したルートを記憶するのではなく、自分が記憶できるルートを選んで移動するのです。たとえば、奥に向かう主洞を見極めて、最初は主洞だけを歩き、支洞には入らないようにするとかです。あるいは自分なりのルールを決め、「枝分かれしたら左の通路に必ず入る」などでもかまいません。帰りは枝分かれしたら、逆に右側を選べばいいだけのことです。
 ここで問題になるのは主洞をどのように見極めるかですが、これはそれほどむずかしくはありません。当たり前ですが、基本的には大きい方が主洞です。まれに逆の場合もありますが、そのときは風が教えてくれます。風の流れを追えば、洞奥にも洞口にも行くことができます。ただ、気をつけなくてはいけないのは、風の流れは巨大なホールなど、大きな空間ではわかりにくくなるということです。通路が狭い方が風の流れがはっきり感じることができます。
 ということで、風の流れがわかりにくく、複数の通路が集まってくる巨大ホールは要注意地点です。洞穴内で迷子にならないためにも狭い通路から大きなホールなどに出た場合は必ず出てきた場所を確認し、覚えておきましょう。これをやっておかないと、大ホールのどこに帰り道があるかわからなくなります。なお、このような巨大ホールで小さい通路の出入り口を特定するのにはコンパスが大いに役立ちます。
 あと、なるだけ多くの洞穴に入洞して、洞穴に対する感性を磨きましょう。すべての人向けのアドバイスとは言い難いですが、ケイビングの経験を積み、慣れてくると、主洞や支洞の区別どころか洞口や洞奥の方向まで自然とわかるようになります。もちろん、これは、ただの勘ではありません。無意識のうちに、これまで説明してきたコツを総合的に応用しているのです。常に目的意識を持って洞穴内を歩いていれば、こういう名人芸も、いずれ可能になります。
 万が一、洞穴内で迷ってしまったり、斜洞や縦穴を登り返せなくなったときには冷静に落ち着いて対処します。迷子になったときは、ゆっくりと記憶をたどり、自分がどういうルートを通ったかを思い返します。とくに狭洞などを抜けた場所がなかったかどうか確認してください。洞穴を登り返さなくなったときは、洞穴全体をじっくりと観察して、迂回ルートがないかどうか確認してください。
 どちらにしても、まず最初は、冷静に判断したうえで自力脱出の努力を行ってください。ただし、その際、脱出できなかった場合に備えて、極力、体力を消耗しないよう、身体を濡らさないようにしてください。
 そして、自分の体力についても冷静に考えてください。また、レスキューのスケジュールを頭の中でシミュレーションしてみてください。脱出のあてがつかないまま、行動を続けた場合、レスキュー隊が到着するまでの時間、体力を保てないと思ったら、すぐに洞内待機に切り替えてください。待機はなるべく乾いていて風が通らない場所を選びます。

 

4.狭洞の抜け方
             ──テクニック編──

 次に狭洞突破についてです。洞穴は不規則な凹凸があるだけではなく、通路が曲がりくねったり、大きくなったり、小さくなったりと千差万別の形態で続いています。そして、ときには極端に狭くなり、立ったままや中腰はもちろん、四つん這いなってさえ通れない場合があります。
 たとえば、天井高が下がり、はわないと入れないような通路を先に進むには、匍匐前進をしなければなりません。ふだんの生活ではほとんどやらない動作なのですが、ケイビングでは基本中の基本です。洞床に腹ばいになり、肘より先の腕と膝やつま先を使って前進します。
 そして、天井高が低いまま、洞幅が狭くなったときは頭を横にし、片腕、あるいは両腕を前方に伸ばして、手の先とつま先を使って身体を前進させます。洞の形状によっては腹ばいではなく、横向きになったり、背中を下にしたり、あるいは、その時々に応じて、グルグルと身体を回しながら進まなければならないこともあります。
 こういった狭洞を突破するコツは手や足を使うときに洞床だけでなく、洞壁や天井などもつかんだり、蹴ったりすることです。また、手足だけでなく身体全体も使います。背中が下になったなら、肩の後ろや頭を動かして前進し、体が横になったなら、全身をうねらせて蛇のように進みます。
 あと、探検服の引っかかりをなくすことも重要です。ポケットに何か入っていたら、すべて出します。また、一時的にベルトをはずしたりもします。これで大人数が入洞している洞穴ならなんとかなります。しかし、洞穴の方に引っかかりが残っている新洞穴の場合はケイビングスーツやポケットを縫い合わせたつなぎ作業服などでアタックしないと困難かも知れません。
 不幸にして、狭洞を突破できず、途中でつまってしまった場合は脱出を焦らず、ゆっくり休んでから入ってきたのと逆の手順で少しずつ戻ってください。横穴ならどんなに狭くて出られそうにないと思えても1度入れたところからは必ず出られます。ただし、縦穴状の狭洞には十分に注意してください。ここで身体がつまってしまったら、どうしようもありませんし、つまっていなくても脱出が困難な場合があります。手足がまったく使えず、身体も動かせない状態では重力に逆らって身体を上方に移動する方法はありません。
 ところで、狭洞突破で危ないのは何も縦穴だけではありません。洞壁や天井が崩れやすくなっている狭洞、崩落岩塊の隙間などは落石や落盤の危険と隣り合わせです。とくに天井や洞壁が崩れそうな狭洞には絶対に進入してはいけません。それは自殺行為です。万が一、落盤した場合、たとえ、即死を免れたとしてもレスキューが不可能か非常に困難な場所です。
 また、崩落岩塊の隙間を抜けるときは事前に岩の安定度をよく調べてください。手で押すと動くような不安定な岩がないか、岩の隙間に転がり落ちるような転石はないか、十分に安全を確認してうえで通過してください。たとえ、小さな転石でも隙間を通過中に身体と岩の間に挟まると、身動きがとれなくなる場合もあります。可能ならば別ルートを探して、そのようなルートは通らないようにすべきです。

 

5.狭洞の抜け方
             ──物理編──

 狭洞を突破するための特殊なテクニックとして、ディギングという手法があります。これは行き先のルートが狭くて通過が困難な場合、入洞者のケイビングテクニックで対処するのではなく、物理的に空間そのものを広げて人が通過できるようにしてしまう方法です。
 具体的には天井高が極端に低くなっているような場合、洞床が土砂やガレ石ならば、その堆積している土砂やガレ石を取り除き、人が通りやすい天井高を確保します。洞床が母岩ならば、タガネやハンマーを使って洞床や天井などの母岩の張り出しを砕き、人が通りやすいように広げます。ときには洞壁を削る場合もあります。ただし、これらの作業を行う場合、二次生成物の破壊は避けなければなりません。
 そして、このディギングの成否は作業場所の環境によります。まず、最も重要なものが作業空間の大きさです。土砂やガレ石を取り除く場合は、それらをどける場所が必要ですし、母岩を削る場合はタガネやハンマーを振るうスペースが必要です。これらの空間が確保できないとディギング作業は遅々としてはかどりません。
 土石の排出スペースが確保できない場合、土石を狭洞の外に排出するのに子供用のレジャーそりを利用すると能率が上がります。そりの前後にロープをつけ、土石を積んだそりをロープを使って狭洞外から引っ張り出します。土石を捨てたら、今度は狭洞内からロープを引っぱり、そりを引き戻します。これを繰り返して、掘り出した土石を広いスペースに運び出すわけです。とくに洞床が砂地のときは相当な威力を発揮します。
 タガネやハンマーを振るうスペースが確保できない場合は根気よく狭洞内で作業を続ける以外に方法はありませんが、メンバーのうち、最も小柄で狭洞突破が得意な人が抜けられるギリギリまで広げて、その人にディギング箇所をなんとか通り抜けてもらい、反対側からも作業するという手段も考慮してください。抜けた側にタガネやハンマーを振るう作業スペースがある場合は能率が飛躍的に向上します。また、たとえ、そういうスペースがなく、狭洞のままでも両方からディギングすれば、半分の時間で作業が終わります。
 ディギングにとって作業空間の大きさの次に重要なポイントは、ディギングを行う通路の傾斜角です。通路が水平ならば何も問題はありませんが、進行方向が下向きの場合は相当困難な作業になります。土石を掘り出すにしても重力に逆らって引き上げなければなりませんし、掘ったはしから崩れて埋まっていきます。また、タガネやハンマーを振るうにも下向きの作業では頭に血が上ってしまい、長時間行うことが困難です。したがって、下方向へのディギングは余程の可能性がない限り、行わない方がよいと思います。
 では、上向きの場合はどうかというと、これも余程の可能性がない限り、行わない方が無難です。もちろん、ディギング作業自体は水平で行う作業に比べて、とても楽で非常に能率的に行うことが可能です。土石を掘るにしても重力を味方につけているわけですから、行き先を崩せば崩すだけ簡単に掘り進むことができます。しかし、これは土砂崩れや大量落石を引き起こすのと紙一重の行為でもあるわけです。どうしても、上方へのディギングが必要なときは、その危険をしっかりと認識し、十分な現場検証と安全対策を行ってから作業してください。
 なお、このディギングは新洞発見のための技術でもあります。今まで人が通れなかった狭洞や完全に塞がっている通路を開口することにより、新洞に入洞することが可能になるわけです。

 

6.縦穴の降り方・昇り方
             ──小規模編──

 ちょっとした高低差や滑りやすい斜洞、洞床のない通路などを移動するのにチムニーという手法があります。ケイビングでは匍匐前進同様、基本中の基本です。沢登りなどでも利用する場合がありますが、ケイビングほど使う機会は多くはありません。というわけで、このチムニーを自在に操れるようになれば、一人前のケイバーです。
 チムニーというのはフリクションとなるものが何もない真っ平らな洞壁に手足を突っ張り、体を洞床から浮かしたまま少しずつ手足を動かして移動する技術です。通常、メアンダートレンチのような縦長で蛇行した通路の上層を前進したり、幅の狭い縦穴を上下に移動したりするときによく利用します。
 チムニーの仕方は手足を両壁に突っ張るのが基本ですが、他にもいろいろなバリエーションがあり、突っ張るのは必ずしも手足とは限りません。背中や腰、肩や頭など、そのときの状況に応じて、いろいろなパターンがあります。通路の幅や洞壁の傾きなど現場の状況に応じて、一番摩擦抵抗を大きくとれる姿勢でチムニーを行うことです。また、凹凸や段差など利用可能なフリクションが洞壁にある場合には、それらも複合的に利用して安定した移動を試みてください。
 また、向かい合わさった壁同士でなくても使うことができます。洞壁の曲がる角度がおおよそ120度以下ならば、その曲がり角を利用してチムニーをすることも可能です。これによって、通路のちょっとした段差もフリーで上り下りすることが可能になるわけです。
 ただし、過信は禁物です。何にもフリクションとなるものがない真っ平らな洞壁で昇降が可能といっても、それは洞壁が滑らないことが前提です。壁が濡れていてもチムニーは問題なくできますが、濡れた状態の壁に泥や石灰分などの微粒子が付着していると、摩擦抵抗が少なくなり、滑落する危険が増大します。また、滑りやすくなるのは洞壁がそのような状態になっているときだけとは限りません。自分自身が泥などで汚れている場合も条件は同じです。チムニーを多用しなくてはならないようなときは、なるべく泥穴などに入らないようにしましょう。
 さらに人があまり入洞していない新洞ではチムニーしている洞壁などが剥がれたり、割れたりすることがよくあります。きっちりと洞壁を押さえつけていれば問題ないのですが、中途半端に加重をかけたり、あるいは引っぱったりしていると、バランスを崩して滑落する危険もあります。新洞でチムニーをする場合には十分に注意してください。

 

7.縦穴の降り方・昇り方
             ──大規模編──

 洞穴は横にばかり広がっているわけではありません。上下にも延びていて、縦穴を形成しています。多少の段差や幅の狭い所なら、チムニーを使って上り下りすることもできますが、空間の規模が大きくて深い縦穴では専用の装備と技術が必要になります。大まかに分けて、ワイヤーバシゴを利用する方法とSRT(シングルロープテクニック)を利用する方法の2つがあります。初心者のレベルでは実行することはできませんが、簡単に説明します。
 まず、ワイヤーバシゴですが、これは縦穴の昇降で一番使われる装備です。一見、簡単に上り下りできそうな気がしますが、スムーズに上り下りするには意外に熟練が必要です。ワイヤーバシゴの上り下りは、その設置状況により、2通りのパターンに分けられます。1つはワイヤーバシゴがまっすぐ下に伸びて宙ぶらりんになっている状態を登るものです。もう1つはワイヤーバシゴがまっすぐに下りず、洞壁にぴったりとくっついた状態を登るものです。
 宙ぶらりんの場合、ワイヤーバシゴと身体の両方が垂直になるように昇降します。両手両足ともステップの手前からつかんだり乗せたりすると、足は前の方に、頭は後ろの方に移動してしまい、大きく傾いた状態で昇降することになってしまいます。これではすぐに疲れてしまいます。手はワイヤーバシゴを抱くようにして、反対側からステップをつかみ、足は片方は手前から、もう片方は反対側からステップに乗せるようにします。あとは腕に力を入れずバランスをとるだけにして、基本的には足を使って上り下りします。
 壁付きの場合、まず最初にワイヤーバシゴを洞壁に対し、垂直に起こさなければなりません。ワイヤーバシゴが壁にぴったりと張りついてしまうと、ステップをつかむことも困難ですし、足をステップに乗せることもできません。また、この状態ではワイヤーバシゴに乗るだけで、自分自身の体重によって、さらにワイヤーバシゴが壁に押しつけられることになります。
 ワイヤーバシゴの昇降時は、どちらの場合も必ず昇降者をザイルで確保しなければなりません。ほんの短い距離だからと油断すると命取りになりかねませんので、十分に注意してください。
 一方、SRTは1本のザイルを使って、縦穴を昇降するテクニックです。2つのアセンダーを組み合わせてシステムを構築し、そのアセンダーを交互にザイルに沿って上げることで、身体を上方に移動させます。最近の深い縦穴は、ほとんどこの技術で探検されています。ワイヤーバシゴに較べて、昇降時の労力、縦穴装備などを軽減できるのがメリットですが、事前の十分な訓練、機材の確実なメンテナンス、リギングの知識などが要求される上級テクニックです。
 実際の洞穴で行う前に洞外で徹底的に研究、修得を行う必要があります。誤った使い方をすると、すぐさま転落事故やスタックなどを引き起こし、非常に危険です。生半可な知識で安易に実行しないでください。その内容はケイビングの1テクニックとして安易に説明できるものではないので、べつに専門書を熟読してください。

 

8.地底湖・地下川の渡り方 

 最後に洞穴内にある地底湖、あるいは地下川の渡湖・渡河の方法について説明します。膝くらいまでの地下水流なら、そのまま水に濡れながら進むことができますが、腰以上の深さになると、何らかの対策を講じなければなりません。
 まずはゴムボートで渡る方法です。一番簡単な方法のように思えますが、狭いルートが数多くある洞穴内を地底湖、あるいは地下川までゴムボートを持っていくことを考えると、意外に労力がいる方法です。また、ゴムボートは岩角などに接触すると、簡単にパンクする危険もあります。ですから、この方法は狭い地下川では不向きです。
 ライフジャケットを着て泳ぐという方法は大きな機動性が確保できます。ただし、水に浸かることになるので、沖縄など水温が高い洞穴以外ではウェットスーツを着る必要があります。しかし、ウェットスーツを地底湖や地下川まで持っていって着替えるのは困難なので、洞口から着ていくことになりますが、これはこれで非常に労力を要することになります。
 どちらにしても洞穴内にある地底湖や地下川といった自由水面にアタックには、それなりの準備と多大な労力が必要ということです。しかし、それ以上に大変なのが完全に水没した地下水系にアタックする場合です。その技術をケイブダイビングと言います。そして、このケイブダイビングは縦穴以上に危険な分野です。通常の海や湖などのオープンウォーターに潜るのとはまったく違った技術、装備、認識が必要で、これらのどれ1つがなくても即遭難──死亡事故につながります。
 なお、このケイブダイビングについても、ケイビングの1テクニックとして安易に説明できるものではないので、べつに専門書を熟読してください。本当にチャレンジするつもりならば、ケイブダイビングを専門にしているケイビング団体などに加入して、心構えとスキルを十分に習得してください。

 

注意!
 このページを読んで、ケイビングをやってみようと思われた方は、自分の責任において行ってください。このページに記された内容を実践し、万が一、遭難事故などを起こされても、当方は一切責任を負いません。

 

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