初心者のためのケイビング入門 基礎編


 
1.ケイビングって、なに?

 ケイビング──多くの方にとっては耳慣れない言葉です。英語で caving と書きますが、やはりピンとこないのではないでしょうか。この caving を語源で見てみると、cave(洞穴)+ ing(〜する)となり、これでようやく意味がつかめる思います。つまり、ケイビングとは、「洞穴」+「〜する」で、「洞穴に入ること」です。言葉としては、ダイビングとかハイキングとかと同じ使い方です。
 日本語では「洞穴探検」ともよく言われますが、まったく未知の洞穴に入るのならいざ知らず、たいていのケイバーは──これもダイバーとかハイカーとかと同じで、ケイビングをやる人のことです──測量図ができあがっている洞穴に入る場合がほとんどなので、正確には「洞穴探検」とは言えません。やはり、caving は「ケイビング」という言い方が一番ふさわしいでしょう。
 ケイビングは、その活動内容から3つの分野に大別されます。まずは誰もが最初に思い描く「洞穴探検」という分野です。次に洞穴探検と若干重なりますが、「学術調査」という分野です。そして、ロッククライミングや沢登りなどと同じく、自然を相手にした「アウトドアスポーツ」という分野です。
 洞穴探検を目的としたケイビングは、前人未踏の洞穴を本当に探検して、その全貌を解き明かそうとする活動です。誰も降りたことのない竪穴を降り、その深さを極めます。すべての支洞に入り、どんなに狭いルートも最後の最後まで前進を続け、その最奥部までつめきります。そして、それら探検した場所の洞穴地図──測量図を作成します。
 学術調査を目的としたケイビングには、いろいろな分野からのアプローチがあります。地質学として、洞穴の成り立ちや構造を調査するもの。生物学として、洞穴内に生息する生物の生態を調査するもの。古生物学として、洞内で発見される獣骨や化石を調査するもの。考古学として、洞口付近で発見される遺跡やその周辺から出土する遺物を調査するもの。じつに様々です。
 地質学の調査では、新たに測量図を作成したり、洞内水系を調査したりと、洞穴探検と重なるような活動もかなりあって、本格的なケイビングを行いますが、考古学の調査では、活動範囲が洞口付近に限られてしまうので、ケイビングの範疇に入れるかどうかはむずかしいところです。
 アウトドアスポーツを目的としたケイビングは、じつは最も一般的なものであり、ケイビングのメインと言うべきものです。すでに洞内の様子が知られている洞穴でも、暗闇に閉ざされた地の底というのは独特の雰囲気があり、探検気分を十分に楽しむことができます。また、竪穴を降りたり、洞内滝を登ったりと、ロッククライミングや沢登りと同じように自然のフィールドにアタックし、その達成感を味わうこともできます。

 

2.ケイビングの魅力!

 このホームページをご覧になっている方々の中には観光化された洞穴、とくに鍾乳洞などに入られたことのある方も多いと思います。そういう観光洞は一般の人でも簡単に入れるように色々と設備が整えられています。照明はもちろんのこと、平らに均された通路、そして、防護策、橋、階段などです。
 ところが、アウトドアスポーツとしてのケイビングは、そのような設備がまったくない自然のままの洞穴に、ヘルメット、キャップライトなどを身につけ、ザイルやワイヤーバシゴなどを使って入洞します。自然を相手にするロッククライミングや沢登りなどと同じで、洞穴内のいろいろなシチュエーションを楽しむのです。
 その雰囲気を伝えるならば、月も星も出ていない真っ暗闇の山の中でロッククライミングをしたり、沢登りをしたりすると言えばよいでしょうか。ときには泥まみれになりながら、あるいは全身ずぶ濡れになりながら、さらには猫ぐらいしか通り抜けられていような狭い穴を葡匐前進しながら、最奥部を目指すのです。
 はっきり言って、暗い所や狭い所が苦手な人、体や衣服が汚れるのがいやな人などは、ぜったいにやりたくないと言うにちがいありません。パラグライダーとかスキューバーダイビングとかのようなトレンディーなアウトドアスポーツとは、まったく正反対の、まさに泥くさいアウトドアスポーツがケイビングなのです。
 そして、このケイビング、欧米諸国では専門の雑誌が発行されたり、探検装備を売っているショップがあるほどポピュラーなものです。登山やロッククライミングなどと同様にメジャーなアウトドアスポーツとして確立しているわけです。ところが、日本では、残念なことに非常にマイナーなアウトドアスポーツで、一般にはまったく知られていません。「ケイビング」という言葉もさえも知られていませんし、当然、やっている人間もケイビングの知名度が低いのと、先ほども説明したいようにスポーツとしてのトレンディーさがまったくないため、ほとんどいません。
 登山人口が数十万にあるのに対して、ケイビング人口はわずか数千人ほどです。この数の中には現役引退組も含まれますから、実際にやっている人間は1000人もいないかも知れません。ケイビングは、このように非常にマイナーなアウトドアスポーツです。しかし、それでも、その楽しみ、その奥深さは他のアウトドアスポーツに決して引けをとりません。それはアウトドアスポーツとしのケイビングが、洞穴探検としてのケイビングと重なる面が大きいからです。
 たとえば登山。多くの人が山の高みをめざして山を登りますが、前人未到の山に登れる人はごくわずかです。未踏峰──だれも登っていない山の頂上のことですが──その未踏峰は、ほとんど残っていません。もうたいていの場所が登り尽くされているのです。ですが、ケイビングにおいては前人未到の場所は、それこそ、いくらでもあるのです。人類として、初めて訪れることのできる場所や、そのチャンスが数限りなくあるのです。
 さらに山の頂上には、それ以上の高みはありません。一方、洞穴の最奥部では、さらに、それより奥の空間が見つかる場合がよくあるのです。日本の代表的な大洞穴は、みんな最初は数百mの小さな洞穴でしたが、探検されるたびに奥が新しく発見されて、だんだんと長くなっていったのです。岩手県にある日本で最も長い安家洞も最初は200mほどの小穴でしたが、今ではなんと12000m以上となっています。近年の例で言えば、滋賀県の河内風穴という400mほどの観光洞もそうです。現在は全長が3000m以上と言われています。洞穴探検には、これで、もうおしまいということはないのです。
 何万年も誰一人として訪れたことのない空間。そして、自分たちが来なければ、この先何千年、いや何万年も人に知られることのなかった空間。その自然が作りだした地底空間への第一歩はロマンに満ちあふれています。オーバーかも知れませんが、その第一歩は月面に第一歩を記した宇宙飛行士と同じような感動があります。一度それを経験すると、病みつきになり、もうケイビングをやめることはできなくなります。前人未到の世界に人類として第一歩をしるす感激。これが、どんなトレンディーな、ファッショナブルなアウトドアスポーツよりも、ケイビングが勝っている魅力です。

 

3.ケイビングで入る洞穴

 ケイビングは「洞穴に入ること」と説明しましたが、ひとくちに洞穴と言ってもいろいろなものがあります。まずは自然洞と人工洞に分けられます。基本的にケイビングは自然洞を対象にしていますが、「探検」という目的においては、人工洞でも成り立つ場合があります。
 それでは人工洞には、どんなものがあるでしょうか? 主なものはトンネル、鉱山の坑道、防空壕と言ったところでしょうか。このうち、1本道のトンネルは探検の対象にはなりません。逆に迷路状に延びている坑道や防空壕などは探検の対象になりうるものです。しかし、探検と言っても自然を征服するという意味合いではなく、どちらかの言えば、知的好奇心の探求というところでしょうか。
 一方、自然洞は一般の人が想像する以上に、いろいろな種類のものがあります。大まかに分けても、熔岩洞、溶食洞(石灰洞ほか)、浸食洞(海蝕洞・凝灰岩洞・砂岩洞ほか)、構造洞(断層洞ほか)の4つの種類があり、それぞれをさらに細かく分類することもできます。このうち、熔岩洞のみが母岩と同時に生成した一次洞穴で、他のものは母岩ができた後に生成した二次洞穴です。
 熔岩洞は火山が噴火して熔岩が流れ出したときにできる洞穴のことですが、熔岩が流れれば必ずできるというものではなく、高温で粘りけが少ない熔岩でのみ生成されます。つまり、熔岩が高温で粘りけが少ないと、表面が固まっても深い所では流動が続き、高温の火山ガスよって洞穴が形成されます。どちらかと言えば、世界的に見ても希な存在ですが、日本では富士山周辺で数多く見られます。もちろん、熔岩洞はケイビングを行う対象となっています。
 石灰洞というのは石灰岩地帯にできる溶食洞のことです。母岩にできた割れ目に沿って酸性の雨水が浸透し、それが少しずつ石灰岩を溶かして洞穴を作り上げます。石灰洞の中でも、つらら石や石筍など二次生成物が数多く発達しているものが鍾乳洞と呼ばれます。日本の自然洞の中では最も数が多いもので、また、ほとんどの観光洞穴がこの石灰洞──鍾乳洞です。そして、ケイビングのフィールドとしてもメインとなる洞穴です。
 海蝕洞は、その名のとおり、海水が海岸部の岩壁を浸食してできる洞穴のことです。その成因から、あまり大規模なものは存在しません。ですから、実際のケイビングで入洞する対象にはなりにくいものですが、海辺ではよく見かけるので、ケイビングの雰囲気を味わうために入洞する分にはちょうどよいかもしれません。
 同じ浸食洞でも凝灰岩洞は地下水流によって形成されます。凝灰岩洞が一般的にどの程度の規模を持つのかについての資料が手許にないため、ケイビングに適した洞穴なのかどうかは不明ですが、自然洞としては石灰洞、熔岩洞、海蝕洞などに次いで数が多いようです。
 逆に砂岩洞は数が少なく、比較的珍しい存在です。その成因の1つは凝灰岩洞と同じく地下水流ですが、石灰分を含んだ砂岩に形成された洞穴には石灰洞と見間違うほど二次生成物が発達したものもあります。それらの中には規模的にもケイビングの対象となりうるものが存在します。一方、地下水流ではなく風蝕によって形成される砂岩洞も存在します。こちらの方は規模が大きくなくケイビングの対象にはなりにくい洞穴ですが、風蝕による独特の洞内形状は一見の価値はあります。
 断層洞は基本的にクラック状の直線に延びる洞穴で、規模もそれほど大きくはありません。ですから、ケイビングの対象にはなりにくい洞穴です。ただし、学術的には非常に研究価値の高い洞穴で、その断層洞の形成過程を調査することで、周囲の地質構造どころか、その付近一帯の地殻構造まで把握することもできます。
 あと、巨大な岩塊が積み重なってできた隙間が洞穴状になっているものも一種の構造洞穴ではないかと思われます。沢すじに形成された場合は地下水流さえ存在しますが、もちろん、ただの隙間洞穴ですからケイビングの対象にはなりません。もしかすると、学術的には構造洞に分類されないかもしれません。
 以上のように、洞穴にはいろいろな種類のものがありますが、ケイビングの対象となる洞穴は、石灰洞、熔岩洞、砂岩洞など一部のものに限られています。それは「探検」を目的にするにしても「探検」の雰囲気を楽しむにしても、ある程度の規模と複雑さが洞穴に存在しないと、ケイビングとしての醍醐味を感じることができないからです。

 

4.観光洞で疑似体験してみよう!

 素晴らしい魅力を秘めているケイビングですが、じつは誰もができるというものではあません。ケイビングに対する知識や技術以前の問題として、洞穴という環境に自分が適応できるか否かが重要です。先に述べたように洞穴内は真っ暗闇であり、匍匐前進が必要なほど狭い所が多々あり、さらに泥で汚れたり、水に濡れたりする所もあります。したがって、暗所恐怖症や閉所恐怖症などのように洞穴内の環境を生理的に受けつけない人たちがケイビングを行うことは極めて困難です。
 というわけで、ケイビングをやってみて、いきなり、そのような事態に陥るというのも大変不幸なことです。そういう不幸な事態を迎えないためにも自分が洞穴内の環境に適応できそうかどうか、ケイビングをやる前に確認する必要があります。
 そこで、まずは観光化された洞穴に入ってみましょう。ただし、あまり規模の大きな観光洞穴では意味がありませんので、なるべく小規模な観光洞穴を選びましょう。関東周辺なら東京都あきる野市の大岳鍾乳洞や埼玉県秩父市の橋立鍾乳洞などが手頃です。これらの観光洞穴の天井が低くて曲がりくねった狭い通路を通っても圧迫感を受けなければ、閉所恐怖症については安心です。
 その次は観光化されていても探検洞として、営業されている洞穴にチャレンジしてみましょう。探検洞というのは、周遊ルートが階段などで若干は整備されているものの照明がまったくなく、ほとんど自然のままに近い観光洞穴です。ケイビングを疑似体験するにはもってこいの洞穴です。
 このような探検洞に類する観光洞穴は、じつは意外なほど数多く各地あります。主なところでは、岩手県下閉伊郡岩泉町の氷渡探検洞(ガイド付き)、福島県田村郡滝根町の入水鍾乳洞Cコース(ガイド付き)、長崎県西彼杵郡西海町の七ツ釜鍾乳洞探検洞(ガイド付き)などです。これらの探検洞は照明設備がありませんから、入洞してパニックにならなければ、少なくとも暗所恐怖症ではありません。
 また、探検洞の中には水に濡れて冷たい思いをする洞穴や泥で思った以上に汚れたりする洞穴などもあります。ここまで疑似体験してみて、なんともないのなら、洞穴内の環境に適応できるということです。そして、なんともないどころか、ワクワクドキドキして、もっともっと探検っぽいことをしてみたいと思ったのなら、迷わずケイビングを始めてください。きっと新しい世界を手に入れることができるはずです。

 

5.体験ケイビングにチャレンジ!

 このページをここまで読んで、ぜひケイビングをやってみたいと思った人もいるでしょう。すぐにでも洞穴に行きたいと、心はやっているかもしれませんが、ちょっと待ってください。この後の「ケイビングの心構え」で詳しく説明しますが、単独でのケイビングは非常に危険です。また、初心者だけでのケイビングも不測の事態に対応しきれないことがあるので、できればやめた方がいいです。
 それではケイビングをやりたいと思ったときは、どうすればよいのでしょうか。住んでいる地域にもよりますが、基本的には既存のケイビングサークルやケイビングをやっている人に連れていってもらうことです。
 とくに関東周辺では積極的に体験ケイビングなどの活動を行っているケイビングサークルが多数あります。それらのサークルに連絡をとり、体験ケイビングに参加するが一番手っ取り早い方法です。
 なお、体験ケイビングは以下のケイビングサークルで行われています。

・関東地方
 パイオニアケイビングクラブ
 NTC洞窟探検隊
 東京スペレオクラブ
 亀戸ケイビングクラブ

・東海地方
 JET(日本探検チーム)

 体験ケイビングへの参加の条件はサークルによって違いますから、事前に確認してから申し込んでください。とくに万一の事故に備えた保険などは絶対に必要ですから、実施サークル側で掛けてくれるのか自分で掛けなければならないのかは必ず確認してください。 また、各サークルが行っている体験ケイビングは、いわゆる洞穴探検の観光ツアーではなく、ケイビングの啓蒙と普及を目的としたボランティア的な活動です。したがって、これらの活動は「洞穴を探検する各個人を相互にサポートし、各人の責任にて行動する」ものです。万一事故などの際も体験ケイビング実施サークルや他の参加者の責任は相互に免責される旨を了解したうえで参加してください。
 こういった体験ケイビングをやっているサークルが身近になくてもあきらめないでください。遠くのサークルに所属している人が近くに住んでいる場合もあります。とりあえずは、どこかのサークル、あるいは日本洞窟学会に連絡をとってみてください。近くでケイビングをやっている人を紹介してもらえるかもしれません。

 

6.ケイビングの心構え

 ケイビングは洞穴内の環境に適応できるからといって、誰でもいきなりできるというものではあません。ハイキングなどは誰でも簡単に始められますが、ロッククライミングやスキューバダイビングなどが十分な知識と技術が必要なようにケイビングにも知識や技術が求められます。そして、それ以上にケイビングに対する正しい心構えが必要です。とくに地底という特殊なフィールドでの活動であることを十分に認識しなければなりません。地底という閉ざされた空間では地上世界の常識は通用しないからです。
 たとえば、洞穴内で迷ってしまった場合、地上と違って周囲の遠景が見えないので、自分の位置を特定するのはきわめて困難です。コンパスを持っていても方位がわかるだけで、場所がわかるわけではありません。洞口の方角くらいはわかりますが、その方向に続いているルートがそのまま洞口に通じているかどうかは不明です。途中でぜんぜん違う方向に曲がってしまうかもしれません。また、洞穴は平面だけでなく、上下にも広がっている立体迷路であることを忘れてはいけません。
 さらに、万が一、洞穴内で遭難事故などを起こしてしまった場合、迅速に救助してもらうわけにはいきません。山なら無線連絡1つでレスキューヘリが飛んできますが、洞穴内から外界へは無線なんか通じませんから、遭難報告、救助依頼の連絡は伝令にたよるしかありません。また、連絡がついたとしても、一般の消防救助隊では洞穴内での救助活動は困難を極める可能性が大です。
 というわけで、洞穴内では遭難事故を絶対に起こさないようにすることが大事です。まずは体調などを十分に整えておき、ベストの状態で臨みましょう。何らかの不安要素を見いだしたならば、必ず安全策を講じましょう。判断に迷ったときも同じです。リスクを冒さないよう、確実な選択を心がけましょう。冒険と無謀を混同してはいせまん。
 そして、必ず複数の仲間と出かけましょう。1人で出かけた場合、万が一、遭難事故を起こしてもどうしようもありません。危険な場所はないからと油断したりしてはいけません。ほんの些細なことで事故が起きることもあるのです。とくに迷子になる危険は1人だと大きくなります。また、ケイビングが初めての人は必ず経験者と一緒に入洞しましょう。洞穴に慣れていないうちは何が危険か判断するがむずかしいからです。
 ケイビングを行ううえで、最低限の基本的な決まり事があます。それは「洞穴内には何も持ち込まず、洞穴内からは何も持ち出さず」です。つまり、ゴミとなるようなものはすべて持ち帰り、鍾乳石など洞内に形成された二次生成物類は一切持ち出さないということです。何を当たり前のことをと思われる方もいるでしょう。しかし、残念ながら、洞穴内を平気で荒らす人たちがいるのも事実です。
 登山など他のアウトドアスポーツでも同じですが、飲食物などをとって出したゴミは必ず持ち帰らなければなりません。使い切った電池や切れた電球、その他の破損した装備などもです。よくキャンプなどで生ゴミだけ埋めてくるなどということがありますが、それも厳禁です。地上と違い、洞穴内では生ゴミは微生物によって分解されることはありません。
 とういわけで、当然ながら、洞穴内での大小便も禁止です。必ず、入洞する前にすませておきます。基本的に洞穴内は低温なので、ケイビング中にほとんど水分をとりません。ですから、入洞前にすましておけば、半日くらいのケイビングなら、がまんすることができます。そして、それ以上、長期にわたって活動する場合は携帯トイレを持ち込みます。ただ、携帯トイレもなく、どうしても生理的欲求に耐えられない場合、そのときは水流部で用をたすようにします。
 洞穴内の二次生成物を壊したり、洞壁に落書きをしたり、ゴミを散らかしたりした場合、それらは何百年もずっとそのままです。二次生成物の成長は何十年単位です。長さ50センチの鍾乳石を折ってしまったら、もとの長さになるには気が遠くなるほどの歳月が必要です。ましてや洞穴の成長が止まっていれば、2度ともとには戻りません。また、地上なら風雨や日照などの自然の力によって、消えていく落書きやゴミも洞穴内では、ほとんど消滅しません。
「洞穴内に残してよいのは足跡だけ。洞穴内でとってよいのは写真だけ」という言葉などもよく聞かれますが、これは必ずしも正しくはありません。すでに多くの人が入ってしまっている洞穴ならいざ知らず、前人未踏の新洞穴に入る場合には可能な限り足跡も残さないようにすべきです。泥土や砂地に足跡が残るのはやむを得ない面もありますが、フローストーンなどの二次生成物でおおわれた真っ白な洞床に泥の足跡を残こすようなことは厳に慎むべきです。
 写真撮影についても注意すべき点があります。洞穴の大小に関係なく、人があまり入洞しない洞穴にはコウモリが生息しています。コウモリは非常にデリケートな生物で繁殖期や冬眠中、むやみに刺激してはいけません。洞穴内での写真撮影では当然ストロボをたくことになるので、コウモリにとっては大迷惑です。ですから、洞穴内での写真撮影はコウモリの生息を脅かさないよう、十分に留意して行います。
 このようにケイビングを行うにあたっては、地底というフィールドならではの数々のリスクを十分に考慮し、それに対する準備を怠らないようにしなければなりません。また、地底世界での時間の流れは、地上のそれとはまったく違うということを理解しなければなりません。それができなければ、ケイビングを行う資格はありません。

 

7.計画を立てよう

 ケイビングへの心構えができたら、いよいよ本番です。しかし、実際に出かける前にやらなければならないことがあります。それはケイビングの活動計画書の作成です。これを作成せずに出かけると、万が一の場合、対処に困ることになりますし、万が一の事態が起きる可能性も高くなります。
 活動計画書を作成するには、ケイビングを行う予定の洞穴についての情報を十分に集める必要があります。洞穴の管理者、あるいは所有者が誰で、入洞するにあたり、許可が必要なのかどうか。許可が必要なら、その手続きの方法や洞口扉の有無など。また、洞穴までのアプローチや洞穴内の詳しい状態も可能な限り把握します。
 入洞に許可が必要なときには必ず正規の手続きで入洞しなければなりません。勝手に入洞した場合、以後、すべての入洞が禁止されることもあり、他のケイバーに多大な迷惑を与えることになります。また、入洞許可を受けた場合は、その入洞条件を遵守しなければなりません。
 洞穴までのアプローチ情報も大切です。洞穴がどこにあるかわからなくてはケイビングのしようもありません。車道のすぐ近くにあるのであれば、問題はありませんが、登山道しか通じていない場所では、どれほど歩くかで計画が大きく左右されます。また、まったく道が通じていない場所では、洞穴の位置を特定するのは大変です。必ず情報提供者に地図を書いてもらいましょう。
 そして、洞穴内の状態を事前に把握しておくことはきわめて重要です。どのような装備を用意し、何人のメンバーでアタックすればよいか。洞穴内に滞在する時間は、どれくらいになるか。これらのことは洞穴内の状況がわかっていなければ、決めることができません。
 洞奥に向かう途中に竪穴がある場合はワイヤーバシゴなどの竪穴装備が必要になります。竪穴の規模により、持っていく装備の内容、ワイヤーバシゴの数量やザイルの長さなども変わってきます。また、背が立たないような深い水流部があるときにはゴムボートなどの装備も必要です。
 洞穴によっては、地上の天気が崩れると、洞内出水するものがあります。ケイビング中の洞内出水は、場合によっては命にかかわります。洞内出水は季節的な要因も大きいので、そういう情報も集めて、洞内出水の危険がある洞穴の場合は天候が崩れにくい時期に計画し、また、天候が崩れたときの対策も講じておかなくてはなりません。
 これら収集した情報を十分に検討し、活動計画書を作成します。活動計画書には、どういうメンバーが、どのようなタイムスケジュールで、どこへ何をしに行くかを、また、参加メンバーの緊急連絡先、血液型、保険の有無、さらにパーティとしての緊急連絡先や緊急時の対策などを記載します。
 実際の活動スケジュールの作成にあたっては「無理は禁物」です。ケイビングに限らず、どのようなアウトドアスポーツでも同じですが、行動予定や活動時間には余裕を持たせましょう。時間がおしせまってくると、ついつい焦りがちとなり、ふつうなら起こさないような事故を起こしてしまうことがあります。最初から天候の悪化など、不測の事態が起きたときにはケイビングの中止あるいは延期も計画に含めておきましょう。
 この活動計画書は、必ず参加メンバー全員が持ち、ベースキャンプあるいは車にも置いておきます。当然、パーティの緊急連絡先を担当する人にも渡しておきます。万が一の事故の時には、後方でバックアップする人間が必要なります。警察や消防との渉外、遭難者の家族への連絡、ケイビングをやっている人たちへのレスキュー応援依頼などは「現場」からではほとんどできません。それらをスムーズに行うためには活動計画書が必要なのです。

 

注意!
 このページを読んで、ケイビングをやってみようと思われた方は、自分の責任において行ってください。このページに記された内容を実践し、万が一、遭難事故などを起こされても、当方は一切責任を負いません。

 

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