パイオニアケイビングクラブ(PCC)の活動 


 

二子山第3次洞窟探索

日時  :1999年1月16日(日曜日)
地域  :埼玉県秩父郡小鹿野町群馬県多野郡中里村にまたがる二子山(双子山)西岳南面
メンバー:芦田宏一,山西敏光,安形康(筆者).
     いずれもパイオニアケイビングクラブ所属
成果  :3〜20mの横穴7本.ディギングで広がる可能性の有る竪穴1本 

●はじめに
 埼玉群馬県境に位置する二子山は,それぞれ「東岳」「西岳」と呼ばれる二つの顕著なピークからなる石灰岩の山である.近年ではそれらのピークの南面がフリークライミングのフィールドとして人気を博している.ケイビングという視点で見ると,パイオニアケイビングクラブで以前に「東岳」周辺の洞窟探索を行っているが,それより明らかに大きな石灰岩体をもつ「西岳」については未調査のままであった.今回はその西岳を対象に,歩ける範囲での洞窟探索を行なった.
 西岳と東岳の間の鞍部を「股峠」という.この峠には林道西秩父線から徒歩5分たらずで到達することができ,大変アプローチが良い.昨年まで,この林道は東の矢久峠からたどる必要があり,秩父市街方面からは多少の遠回りを強いられていた.しかし現在では西の国道299号坂本周辺からも道が通じ,格段に行きやすくなった.今回は,坂本から林道に入ることにより,この林道周辺の石灰岩観察も行うこととした. 

●林道周辺の観察
 この林道には一ヶ所トンネルがあるが,それを抜けると展望がかなり開ける(東岳のさらに東の地点).ここで谷側を見下ろすと,斜面のかなり広い範囲に石灰岩らしき露岩が観察できた.双眼鏡で見た感じでは,溶食も多少受けているようである.しかし今回は西岳周辺の探索を優先したため,こちらは間近では見ていない.
 東岳北面の観察をしながら(すでに発見されている天風洞以外は,林道に近いところには洞口は見当たらなかった),股峠入口に到着.この付近には二子の泉という湧泉がある.探索日前にはかなり長い間乾燥した日が続いていたが,安形が観察したところ,夏季の状態より多少湧出量が少ないものの,ちゃんと湧出していた.この湧泉の周辺は二子山石灰岩体の土台となっている岩であり,石灰岩から直接湧き出ているのではないが,石灰岩の内部でも水の作用が現在でも働いているかもしれないと期待した.
 午前9時45分,徒歩を開始.股峠から南面に10mくらい降りたところから右(西岳の方向)に曲がり,うすい藪を突きながら露岩の観察を開始した. 

●竪穴残存洞
 最初の発見は,その入口から5分くらいのところにあった直径5m強・深さ15mほどの竪穴の跡と思われる残存洞である.これは幅2m深さ5mくらいのゴルジュ状のところを通って入るのだが,開口が大きすぎて洞窟とは呼びがたい.周囲には溶食形態が見られたが,洞窟と呼べるようなものは無かった.芦田の意見では,もともとあった竪穴が崩落岩塊で埋まっているのではないかとのことだった.なお,ここでは朽ちた花束と線香が見つかった.西岳では登山道でも危険な場所が多く,たまに遭難事故が起こる.もしかしたらそれにちなむものなのかもしれない.それにしてもこのような残存洞があるということは,もしかしたら他に大規模な洞窟があるのではないだろうか.期待を抱かせる. 

●FWS-1,2
 西岳南面の石灰岩壁は,比高100mにも達する大規模なものである.この地点からは上下いずれにも行けそうであったが,とりあえず上に行き,石灰岩壁の中ほどをトラバースするような観察を先に行うことにした.そこで10分ほど林の中の急斜面を上がると,なぜか背負子が二つ置いてあり,明瞭な踏み跡と合流した.石灰岩壁の下を行くこの道を10分ほど西に進むと,突如としてや西岳南面の岩場やローソク岩(西岳南面のシンボルである高さ20mくらいの独立岩峰)が一望できる場所につく.壁はここで右側に折れる(つまりカンテ状となっている)が,安形はその角を回りこんですぐのところに貫通洞を発見した.四つんばい程度のサイズで長さは5mくらい,傾斜は強い.また芦田は,この洞窟の上の洞口の脇に別の洞口を見つけた.これは最初から匍匐の穴で,人の背丈程度続いていた.ディギングすれば続くかもしれなかった.
 これら二つの洞窟はFWS-1およびFWS-2というコードネームを冠した.FWSは「二子山」「西岳West Peak」「南面South Face」の頭文字である.以後に見つかった洞窟も同様の命名を行っている. 

●FWS-3,4
 先ほど行き先が上と下に分かれていた地点に戻る途中,違う道を通ってみようということで,FWS-1,2付近から直接斜面を下ってみた.するとおびただしい量のよく発達した溶食形態が見られた.これはすごい眺めであったが,洞窟は見つからなかった.ここを直接下るのは,不可能ではないようであったが,すぐ下にフリークライミングを行っている人がいるので,落石の危険を考えてやめた.
 つぎに下の道を行ってみると,これはすぐにフリークライミングのフィールドとなっている大きな前傾壁の横であった.ここで芦田が,かなり上り下りが難しいルンゼの上に洞口を発見し,入ってみたところ,ボアパ状の横穴で長さ8mであった.これはFWS-3とした.また安形は,FWS-3の左上の,クライマーが「ピープウォール」と呼んでいる極端に前傾した壁を偵察しに行ったところ,その壁の基部に横穴を発見した.サイズは主に四つんばい位で,長さは20m弱であった.洞口は二つあり,横に近接して並んでいる.その間をU字形につなぐ感じの貫通洞であった.また,ディギングすれば入れると思われる狭い支洞があり,奥は多少広がっているのが見えたため,もうすこし長くなるかもしれない.これが今回見つけたなかで最も長い洞窟である.名前はFWS-4.
 なお,ピープウォールへのアプローチの登りはかなり急で危険である.一応フィックスロープがはってはあるがすでに相当古くなっており,しかも体重をかけると岩角に当たっているという代物であった.したがって芦田と山西は無理をしなかったため,現在ではこの洞窟を見たのは安形一人である.そのため「一人占めの穴」という別称も提案されている.ちなみにピープウォールはかなり上級者向けの岩場であり,この危険なアプローチも難なくこなしていたと思われるため,貧弱なフィックスロープしか残っていないと考えられる(それにしても危険なことであるが).しかし洞窟に興味を持つ上級クライマーがいなかったためか,この洞窟の報告は聞いたことがない.よく見える洞口であるため,洞窟に興味がある人が来たならまず間違いなく見逃さないと思うが… 

●南面基部の探索
 FWS-3,4付近からすぐ下が,クライマーが「祠エリア」と呼んでいる高さ20m程度のきれいな前傾壁である.ここが西岳石灰岩のほぼ基部にあたる.この日も3パーティが課題に取り組んでいた.彼らの好奇の視線を浴びながら,ツナギ・ヘルメットの3人組は西岳南面基部を西にトラバースし始めた.
 ここは明瞭な道があるが,なるべく壁から離れないように,場所によっては道から外れてあるいた.30分ほど歩いたところで,斜めの貫通洞を見つけた.サイズはチムニーでちょうどいい程度,長さは4mくらいであった.これはFWS-5とした.
 ローソク岩につき,基部を回ったところ,巨礫の集積した間に人が入れる空間があった.山西が入ってみたところ,奥は3mくらいで終わっていたが,なにか動物の棲家のようであったらしい.FWS-6とした.
 ローソク岩そばで昼食をとった.この付近からの西岳南面はあまりに巨大に見え,今日一日で全域を調査しようと思ったらかなり概査的なものにならざるを得ないと判断した. 

●ローソク岩以西
 ここからさらに基部のトラバースを続けると,道の上下に石灰岩が出て来たので,二手に分かれることにした.その最中,単独で行動していた山西が,礫の隙間から暖かい風が湧きあがっている地点を発見した.これはどうやら幅数mのクラック状が礫で埋積されているように見えた.ある程度ディギングしてみたところ,礫の排除さえうまくいけば入洞可能な竪穴が開けるかもしれないと判断された.これは今後の課題とし,FWS-7とした.
 ここからもまだまだ壁は続き,その巨大さにだんだんあきれ始めたのであるが,なかなか大きな洞窟につながるような発見はなかった.ただし,途中で道が稜線のかなり近くを通っている場所があり,その付近で山西が立って歩けるほどのサイズで長さ7mほどの横穴を発見した.今回,立って歩ける洞窟はこれが唯一であった.これはFWS-8とした. 

●おわりに
 結局西岳南面という幅1km弱高さ100mにも達する大規模な石灰岩壁の,基部全体と中間部東半分を歩いたのであるが,洞窟の発見は以上の小規模なものしかなかった.これまでにPCCが発見・探査した多くの洞窟では流水の作用がきわめて活発なものが多かったが,今回は周囲から突出して聳え立つ独立峰のためそのような作用はすでに過去のもののようである.もちろんそのような場所にも大洞窟の存在の可能性は皆無ではないが,PCCの経験から言うとやはり流水の作用の影響を現在あるいは近い過去に受けていると思われる地域のほうが大洞窟の発見の確率は高いようである.

(文中敬称略.文責:安形康) 

 

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